2024.10.15

「嗅ぎたばこ入れ 人々を魅了した小さな容器」がたばこと塩の博物館で開催。知られざる嗅ぎたばこの豊かな文化を紹介

「嗅ぎたばこ」の歴史と、世界の様々な「嗅ぎたばこ入れ」を展示する展覧会「嗅ぎたばこ入れ 人々を魅了した小さな容器」が、東京・墨田区のたばこと塩の博物館で開催中。会期は12月22日まで。

金台エナメル仕上げ風景模様嗅ぎたばこ入れ フランス 19世紀
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 「嗅ぎたばこ」の歴史を紹介するとともに、世界の様々な「嗅ぎたばこ入れ」を展示する展覧会「嗅ぎたばこ入れ 人々を魅了した小さな容器」が、東京・墨田区のたばこと塩の博物館で開催されている。会期は12月22日まで。

 たばこにはパイプやきせる、シガレットのような喫煙形態のほかに、「嗅ぎたばこ」という楽しみ方がある。粉末状にしたたばこの葉を鼻から直接吸い込んで嗜むもので、もともとはアメリカ大陸先住民の風習だったが、大航海時代以降ヨーロッパに伝わり、その後中国などのアジア各国にも広まった。

金台エナメル仕上げ人物模様嗅ぎたばこ入れ フランス 18世紀

 嗅ぎたばこを保管・携帯する容器は「嗅ぎたばこ入れ」と呼ばれ、金属、木材、ガラス、貴石など様々な素材でつくられ、容器の形状にもいくつか種類がみられる。日本ではあまり馴染みのない「嗅ぎたばこ入れ」だが、フランスのルーヴル美術館や台湾の故宮博物院など世界の美術館・博物館のコレクションとして収められるなど、その美術工芸品としての評価は高い。

翡翠製鼻煙壺 中国 19~20世紀

 本展では、嗅ぎたばこの歴史を文献や版画、参考図版などを通して紹介するとともに、フランスをはじめとするヨーロッパのスナッフボックスやスナッフボトル、中国の鼻煙壺、その他の地域のさまざまな嗅ぎたばこ入れを展示。約280点の作品を通してその多彩な魅力を紹介している。

影瑪瑙製大根と蝗模様鼻煙壺 中国 20世紀

  例えば、ヨーロッパにおいては、スペインで17世紀はじめにヨーロッパ初のたばこ工場が建設され、嗅ぎたばこの製造が開始。フランスでは18世紀はじめに宮廷で嗅ぎたばこが流行し、ヨーロッパ中に広まるきっかけとなった。

 嗅ぎたばこを保管する容器は、「スナッフボックス」と「スナッフボトル」に大別される。素材は、庶民が用いる嗅ぎたばこ入れの木などの簡素なものだったが、貴族を中心とした上流階級の人々は、金や銀、鼈甲などを用いたり、エナメルで仕上げたりした贅沢なものを使用していた。金、銀などのほかにも、象牙や動物の角、貝、ガラスなど、様々なものを使用し、かたちもまた、箱状や瓶状のみならず、人物や動物など様々なものがある。

貝製銀台座嗅ぎたばこ入れ イギリス 18~19世紀

 いっぽう、中国には17世紀ごろヨーロッパ人宣教師によって持ち込まれた。中国では瓶または壺型の嗅ぎたばこ入れが主流で、鼻煙壺(びえんこ)と称される。歴代皇帝は工芸品の製作に関心を示し、宮廷専用の器物を製作する工房を紫禁城内や景徳鎮に設け、そこでは様々な素材の鼻煙壺も制作された。貴石、ガラス、陶磁器、金属、有機物など多彩な素材のものがみられる。ガラス製のもののなかには、人物や風景が描かれた内画(うちえ)鼻煙壺というものもあり、今日でも中国の細密工芸を代表する美術工芸品として、観賞用に数多く製造されている。

ガラス製百鶴模様内画鼻煙壺 中国 20世紀

 モンゴルやチベットでも、嗅ぎたばこは古くから嗜まれていた。金属や角、骨などを素材とした丈夫な嗅ぎたばこ入れが多くみられ、また、中央アジアではナスとよばれる特徴的な嗅ぎたばこ文化もある。ナスを携帯・保存する容器はナスカドゥと呼ばれ、銅や銀などの金属を素材にしたものや瓢箪を利用したものなどがみられる。

雪片地赤被せガラス製吉祥模様嗅ぎたばこ入れ モンゴル 19~20世紀

 このように、多様な嗅ぎたばこの容器を紹介し、日本では馴染みの薄い嗅ぎたばこの豊かな文化と美術的な側面を紹介する、希少な展覧会となっている。ぜひ、足を運んでみてほしい。

金属装飾ナスカドゥ ウズベキスタン 20世紀