2年目の「Study」の成果発表。2025年に向けた「Study:大阪関西国際芸術祭」が今年も開幕
2025年に万博と同時開催を計画している「大阪関西国際芸術祭」。その実現可能性を「スタディ」する芸術祭「Study:大阪関西国際芸術祭」の2回目が開幕した。
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2025年、日本国際博覧会(大阪・関西万博)と同時開催を計画している「大阪関西国際芸術祭」。昨年、その実現可能性を「スタディ」するための芸術祭として「Study:大阪関西国際芸術祭」が初開催された。今年はそれに会場を追加するかたちで「Study:大阪関西国際芸術祭 2023」として開幕を迎えた。会期は2月13日まで。
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芸術祭の舞台となるのはグランフロント大阪、北浜のホテル「THE BOLY OSAKA」やフレンチレストラン「ルポンドシエル」、大阪商人発祥の地とされる船場の「船場エクセルビル」、そして西成のあいりん地区や飛田新地など。おもな会場の様子をレポートしたい。
グランフロント大阪
JR大阪駅前の商業施設、グランフロント大阪。その北館1階にある吹き抜け広場では、建築ユニット・NO ARCHITECTSとアーティスト・林勇気による《かつての》が展示されている。本作で林は、かつて梅田という土地が湿地帯だったことにインスピレーションを受け、湿地の映像を現代のビルに映しこんだ映像作品を制作。NO ARCHITECTSが構築した空間に映し出され、多くの人々が往来するホールで存在感を放つ。
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ホールの吹き抜けには、鬼頭健吾による布をつなぎ合わせた巨大な作品《inconsistent surface》が展示されている。本作は鬼頭が2011年に制作した作品で、約600枚のスカーフをつなぎ合わせることで、鬼頭が日本やベルリンで見てきた並ぶ建物のファサードの整然、あるは不均衡さを表現してる。
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グランフロント大阪の1階、JR大阪駅に面した「うめきた広場」には、葭村太一の木彫作品群《34°42’12”N 135°29’41”E》が展示。現在は大阪の交通の要所でありながら、かつては自然豊かな場所であった梅田という土地に焦点に着目した作品だ。
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再開発により、公園をはじめとする自然の景観を梅田の街に整備しようという動きもあるなかで、葭村は世界の緑化政策を行っている国をリサーチ。各作品にかたどられたポップな造形は、世界の各都市で葭村が出会ったストリートアートを写したものだ。内部にはスピーカーが組み込まれており、各都市の緑化政策についてのテキストが、ラップのかたちで読み上げられる。また、ボックスのQRコードを読み込めば、そのストリートアートがあった場所のGoogleマップが表示され、遠い土地で育まれたストリートの歴史や文化に思いを馳せることができる。
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うめきた広場にある「うめきたSHIPホール」の2階では、丹原健翔とヌケメがキュレーションする「無人のアーク」が開催されている。本展には、6名のアーティストが参加し、100年後の未来をイメージした展示空間に、6つの作品がひとつのインスタレーションのように配置されている。
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会場の四隅にはゲームセンターにあるゲームの筐体が置かれ、そのモニターでは菅野歩美、高田冬彦、山形一生、スクリプカリウ落合安奈の4名の作家の映像作品が上映されている。会場の中央にはきゅんくんによる立体作品《形骸化したロボットアーム》が設置され、さらに天井部にはマイケル・ホーによる映像作品《I don’t want to go, but maybe it’s for the better》が投影される。
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丹原とヌケメは、本会場である「うめきたSHIPホール」を「現代社会を航海する方舟(アーク)」に見立てたという。廃墟を思わせる作品が並ぶこの空間は、現代社会において「振り返る」というアクションが持つ意味とは何かを、見るものに問いかけている。
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北浜
北浜にあるリノベーション・ホテル「THE BOLY OSAKA」では、四方幸子がキュレーションする展覧会「エッセンシャル・クリティカル・インフラストラクチャ」が開催されている。
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本展では石毛健太とやんツーのふたりが展示を実施。神奈川から雪の中運び込まれたというふたりの作品が、地下展示室から6階にいたる非常階段、さらに屋上にまで展示されている。
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四方は本展について次のように語る。「物流やそれを支える社会的背景に興味を持つ、石毛とやんツーによる二人展となった。搬入のための輸送の過程で降雪に見舞われたりと、本展示ができる過程も、テーマに溶け込ませながら石毛とやんツーが作品化していった」。
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ホテルの屋上にはスーツケースに土を詰め込んだ石毛健太の作品《エイリアン・キャリアー》が配置された。スーツケースの中の土に入っていた種が芽吹き、青々とした雑草が緑の葉を茂らせている。本作は神奈川からやんツーの車で大阪に運ばれており、展示期間中もこの土地の空気を吸って変化していくという。
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やんツーは石毛の作品とともに自作を車で大阪の会場まで輸送。その過程で原子力発電所を始めとする様々なインフラストラクチャーをめぐった。輸送途中で雪により高速道路が麻痺するというアクシデントに見舞われつつも、搬入を成功させたやんツー。その輸送プロセスを写真家の楽太郎がとらえた作品が、6階から1階にかけての非常階段で展示されている。なお、非常階段の各所にはアンディ・ウォーホルをはじめとしたホテルオーナーのコレクションも展示されており、やんツーが体現したロジスティクスと共鳴する。
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こうして輸送された作品は、地下1階のスペースで見ることができる。やんツーによる自動学習のペインティングマシンによるドローイング作品のほか、石毛によるアマゾンやイケアといった巨大資本が支えるインフラをテーマにした立体作品のほか、映像作品も見ることができる。
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なお、会期終了後、作品は再びやんツーの車によって海老名のアトリエへと輸送される予定だ。帰京の過程で再び、何かしらの変化が作品に訪れるかもしれない。
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西日本で最初に100メートルを超えたビルとして知られる、「大阪大林ビル」(現在は建て替えられ北浜ネクスビルディングとなった)。1973年に竣工したこのビルで営業を開始した伝統あるフレンチレストランが「ルポンドシエル」だ。「ルポンドシエル」は、昨年12月に淀屋橋に店舗をオープン。ここにはギャラリー「BRIDGE」も併設されている。
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この「BRIDGE」では日比野克彦の日記のように絵を描くアートプロジェクトから生まれた作品《AUG 2016 in BRAZIL》のエディションを 30枚展示。レストランではこれらの作品からインスピレーションを受けたシェフによる料理も楽しむことができる。
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大阪府立中之島図書館
1904年に竣工した、大大阪時代(大正後期から昭和初期)のにぎわいをいまに伝える大阪中之島図書館では、沓名美和のキュレーションによる「二次元派」の展示が行われている。
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90年代から中国を中心にアジアを席巻した日本のアニメやマンガ、ゲーム、デザイン、ファッションなどに強い影響を受け、00年代後半以降、多くのアーティストが作品を発表してきた。SNSをはじめとするインターネットを介してイメージが流通し、コレクターからも高い人気を集めるこれらの作品群は、「二次元派」という呼称で呼ばれることもあるという。
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沓名はこの「二次元派」に着目し、初の「二次元派展」を昨年、代官山で開催。この中之島図書館の展示はその延長線上にあるものだ。参加アーティストは大澤巴瑠、奥田雄太、きゃらあい、仲衿香、BYNAM、牧田愛、松山しげき、山口真人、山口歴、Rooo Lou、宏美。
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参加作家のひとりである宏美は、同年代から若手の作家を集めたドローイング展を年に1、2回のペースで開催している。本会場でも宏美のもとに集まった伊丹小夜、城月、ク渦群、下村悠天、パルコキノシタ、やとうはるかの作品を見ることができる。
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船場エクセルビル
解体が予定されている1968年竣工のオフィスビル「船場エクセルビル」。前回も会場となった本ビルでは各フロアを使い、加須屋明子とパヴェウ・パフチャレク、プロダクション・ゾミアの共同キュレーションによる展覧会「再・解釈」が開催されている。ロシアのウクライナ侵攻を筆頭に、多くの人々が直面することとなった「アイデンティティ」について、広く問う作品が展示されている。
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ユリア・クリヴィチ、タラス・ゲンビクによる「『ひまわり』連帯文化センター」は、ロシアの侵攻を発端につくられたパフォーマンスグループだ。多くのウクライナ人が避難しているポーランド・ワルシャワで、ウクライナの国花であるヒマワリの種を蒔くパフォーマンス《ひまわり》の映像上映のほか、ウクライナのアイデンティティを確かめるような数々の作品を展示。また、会場ではウクライナの料理を振る舞い、談話を行うことで、ウクライナの置かれた窮状と、アイデンティティ回復の戦いを日本の社会に問いかける。
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ユリア・ゴラホフスカ、ヤゴダ・クフィアトコフスカ、下村杏奈によるコレクティブ「コレクティヴ・ワスキ」は、よく知られた楽曲の歌詞を地球環境問題や平和といったメッセージ性の強いものに変え、カラオケで歌うことで、実践につなげていく作品《アクティビストのカラオケルーム》を制作。会場ではこのカラオケルームで実際に歌うことができるほか、関連した映像作品も上映される。
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ベトナム人アーティストのトゥアン・マミの《ベトナムから移された庭(No.4):植物たちはこの土地を侵略し壊すだろうか?》にも注目したい。ドクメンタ15のほか、世界各地でこの《移民の庭》をつくってきたマミ。本芸術祭では日本に輸入することが禁じられているベトナムの植物に着目した。
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大阪の各所に住んでいるベトナム人たちは、持ち込みが禁止されているはずベトナムの植物を育て、株を分け、食材としている。マミはこれらの植物を集めてビルの6階に展示。このように他国の植物が持ち込まれている状況は侵略なのか。それとも移動によって新たな価値が生まれているのか。本作は、歴史上幾度も繰り返されてきた人類の移動の歴史、移民問題、土地に紐づいたアイデンティティなどを絡ませながら、多様な問題を投げかける。なお、展示されている植物を、在阪のベトナム人たちが料理して食すというイベントも開催される予定だ。
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西成区
美術家の西尾美也が、西成区山王にあるkioku手芸館「たんす」に集まる地域の女性たちとの共同制作により立ち上げたブランド「NISHINARI YOSHIO」。前回に引き続き、今回もその工房で展示が行われている。
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会場では、西成を舞台に撮影されたNISHINARI YOSHIOのコレクションフォトを展示。また、1階のワークショップスペース、2階のショップも見学することが可能だ。
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また、今年もNPO法人「こえとことばとこころの部屋(ココルーム)」が運営する「釜ヶ崎芸術大学」が参加している。2012年に大阪市西成区釜ヶ崎にて開講した釜ヶ崎芸術大学は、日雇い労働者の街として知られる釜ヶ崎の街を大学に見立て、地域の様々な施設を会場に展開するゆるやかなプロジェクトだ。
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同プロジェクトは先述の船場エクセルビルでも巨大なインスタレーションを展開。本校をそのままビル内に持ちこんだような空間が構成され、ここでワークショップやオンライン企画などが行われる。
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西成区にある釜ヶ崎芸術大学の本校では、本芸術祭に合わせた展示は行われていないものの、訪れることでこの場所で行われてきた活動を知り、コミュニティとしての価値を体感することができる。
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戦前の大阪で有数の遊郭として発展し、戦後の赤線を経て売春防止法施行以降も全国有数の色街として名を馳せてきた飛田新地。ここも、本芸術祭に新たに加わった会場だ。飛田新地にある飛田会館では、メディア・アーティストの落合陽一が作品を展示している。
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落合は人々が生活するうえでの光景が、時代によって変わっていくことに向き合い、その風景のアーカイヴ化を試みた。公娼時代には性病の有無を医師が検査していたという飛田開館の大部屋。ここで落合は、娼婦が検査を受けるために昇った階段などをモチーフとした作品を展示している。
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以上のように「Study:大阪関西国際芸術祭」は大阪の各地区において自治体と連動しながら、芸術によって新たな価値を育む試みを行っている。こうした試みはジェントリフィケーションに寄与し、新たな人々の流入を促進し街を活性化させることで、地域の持つ価値を上げることになるだろう。いっぽうで「ジェントリフィケーションによって、その場所にかつてあったコミュニティや低所得者層の生活の場が収奪されていないか」という問題提起が世界中でなされていることも事実だ。2025年に向けて大阪各所の再開発はますます活発化するだろうが、「芸術」の名のもとでこの動きに寄与する以上、主催者、支援する企業や団体、キュレーター、アーティスト、メディアそれぞれが、それに伴って生じる諸問題について問われたとき、自身の行動や言葉による回答を用意しておく必要があるはずだ。
現代美術の新たな舞台として存在感を増す大阪。本祭を旗振り役として大阪における美術の「スタディ」が積み重なった結果、我々は2025年に何を目にすることになるのか。期待が高まる。
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