高橋コレクションとの新たな連携企画。川端龍子と谷保玲奈、大作の共演を大田区立龍子記念館で見る
日本画家・川端龍子の作品と現代作家・谷保玲奈の高橋龍太郎コレクション所蔵作品をともに展示する「川端龍子プラスワン 濱田樹里・谷保玲奈──色彩は踊り、共鳴する」(後期)が東京・大森の大田区立龍子記念館で開催されている。会期は2024年1月28日まで。
高橋龍太郎コレクション連携企画「川端龍子プラスワン 濱田樹里・谷保玲奈──色彩は踊り、共鳴する」(後期)が東京・大森の大田区立龍子記念館で開催されている。会期は2024年1月28日まで。
龍子記念館は、日本画家・川端龍子(1885〜1966)の文化勲章受章と喜寿を記念して1963年に設立。1991年からは大田区立龍子記念館となっている。
本展は「川端龍子プラスワン」をテーマに、日本屈指の現代美術コレクターである高橋龍太郎のコレクションと連携し、現代の美術作家の作品と川端龍子の作品を併置することで、新たな視座を提示するもの。2021年の「川端龍子vs.高橋龍太郎コレクション」で好評を博した企画に続く展覧会だ。10月21日~12月3日の前期展示では濱田樹里を、そして12月9日からの後期展示では谷保玲奈(たにほれいな)の作品とともに、同館のコレクションを展示している。本稿では後期展示をレポートしたい。
谷保は1986年東京生まれ。多摩美術大学大学院美術研究科絵画専攻日本画領域修了。2014年に第25回五島記念文化賞美術新人賞、15年に第6回東山魁夷記念日経日本画大賞選考委員特別賞、16年に第52回神奈川県美術展県立美術館賞を受賞した。
会場では入口から《渦潮》(1956)や《炎庭想雪図》(1935)といった川端龍子の大作が並ぶ。なかでも注目したいのが《草の実》(1931)だ。秋の草花を数種類の金によって彩色し、強烈な印象を与える本作。谷保は美術予備校時代に本作と偶然出会い、そのときに素直に「かっこいい」と感じたことが、日本画の道に進むきっかけになったという。谷保は本作を「圧倒的な何かの到達点」と評しており、現代作家と龍子とのつながりを感じることができる。
また、龍子の作品として広く知られる、戦時下の爆撃の爆風で飛び散る草花を描いた《爆弾散華》(1945)についても、谷保は「強さと生々しさと迫力がとても好き」とコメントを寄せる。このように、会場では龍子の作品に対しての谷保の思い入れや感想をテキストで読むことができるようになっている。
今回の展示で谷保は極彩色の植物や海洋生物のイメージが増殖、拡大していく作品を展示した。《ウブスナ》(2017)と《共鳴》(2018)、《蒐荷》(2020)の3作は、いずれも龍子の作品に勝るとも劣らない大作で、緻密に描写された昆虫や貝類、植物が、強烈な色彩とともに迫ってくる。
さらに谷保は本展に際して新作《 狭間にゆれる》(2023)も制作。岩絵具で花々や蝶、猫を絹に描き、天井から吊り下げた。パネル装や軸装された作品とはまた異なる、絹の透明感がそのまま生かされた本作は、展覧会にリズムを与えている。
南国を思わせる谷保作品の鮮烈な色彩は、南洋のスケッチも数多く残した龍子ともどこか重なるところもある。会場ではふたりのスケッチをそれぞれ見ることができる。また、龍子記念館の向かいにある龍子のアトリエにおいて、谷保が本館では初となる滞在制作を12月19日まで行っており、龍子公園の案内時刻(開館日の10時~、11時~、14時~)には、制作の様子を見られる場合もある。
現代作家の作品によって、川端龍子に新たな視座を与える本企画。現代日本画の系譜をたどりつつ、その影響関係や引き継がれてきた思想などを感じることもできる展覧会だ。