2024.3.12

特別展「花・flower・華 2024」(山種美術館)開幕レポート。花の季節に花の日本画を見る

東京・広尾の山種美術館で、花をテーマに日本画を集めた特別展「花・flower・華 2024 ―奥村土牛の桜・福田平八郎の牡丹・梅原龍三郎のばら―」が開幕。会期は5月6日まで。

文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

展示風景より、荒木十畝《四季花鳥》(1917) 山種美術館
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 東京・広尾の山種美術館で恒例となっている、花をテーマにした日本画の展覧会、特別展「花・flower・華 2024 ―奥村土牛の桜・福田平八郎の牡丹・梅原龍三郎のばら―」が開幕した。会期は5月6日まで。

展示風景より、山本梅逸《花虫図》(1835〜49頃) 山種美術館

 本展は田能村直入、横山大観、菱田春草、奥村土牛、福田平八郎といった画家たちによる、花々を描いた作品を集めた展覧会だ。第1章「百花繚乱─花の絵画」と第2章「人と花」で構成される。

 第1章は、桜を描いた作品の紹介から始まる。横山大観《春朝》は、朝日に輝く山桜を画面いっぱいに描いた作品。金泥で表現された霞が春の趣を掻き立て、細やかな花々を強調する。渡辺省亭の《桜に雀》は三幅対のうちのひとつで、山桜と雀を取り合わせた作品だ。欧州滞在時の経験を生かし、枝の質感や雀の体毛をリアリティあふれる筆致で躍動的に描いている。

展示風景より、横山大観《春朝》(1939頃) 山種美術館
展示風景より、渡辺省亭《桜に雀》(20世紀) 山種美術館

 ほかにも桜を題材にした作品は多く、稗田一穂《朧春》や千住博《夜桜》は、夜の桜の儚げで幻想的な様を描き出している。なかでも古くは豊臣秀吉が花見を開催した京都・醍醐寺の桜を描いた奥村土牛の《醍醐》は、薄い絵具を幾重にも塗り重ねることで表情豊かな花の広がりと幹の質感を表現した、土牛の代表作ともいえる作品だ。

展示風景より、左から千住博《夜桜》(2001)、稗田一穂《朧春》(1976) ともに山種美術館
展示風景より、奥村土牛《醍醐》(1972)山種美術館

 牡丹もまた、古くから日本画の画題とされてきた花だ。牡丹を繰り返し描いた菱田春草の《白牡丹》は、存在感のある白牡丹のまわりに長寿の象徴であった蝶を2匹舞わせ、川端龍子の《牡丹》は、花弁の立体感を力強い筆致で表現している。

展示風景より、菱田春草《白牡丹》(1901頃) 山種美術館
展示風景より、川端龍子《牡丹》(1961) 山種美術館

 いっぽう、速水御舟《牡丹花(墨牡丹)》は墨の滲みを活かしながら、牡丹の豊かな花弁を表現した一幅。葉のやわらかな質感や淡い白緑の色彩など、高い技術で存在感あふれる牡丹を表現した。おなじく御舟による二幅の掛け軸《紅梅・白梅》は、月夜に輝く紅白の梅を対で描いており、単純化された枝ぶりがその奥ゆかしさをより強調している。

展示風景より、速水御舟《牡丹花(墨牡丹)》(1934) 山種美術館
展示風景より、速水御舟《紅梅・白梅》(1929) 山種美術館

 小林古径《白華小禽》と山口蓬春《梅雨晴》は、それぞれ泰山木と紫陽花に初夏の情景を託した作品。瑠璃色の鳥と泰山木のコントラストや、花も葉も鮮やかに輝く雨上がりの紫陽花を楽しみたい。

展示風景より、左から小林古径《白華小禽》(1935)、山口蓬春《梅雨晴》(1966) ともに山種美術館

 ほかにも誰もが知る尾形光琳《八橋図屏風》(メトロポリタン美術館蔵)等に影響を受け、川端龍子が生み出した屏風絵《八ツ橋》や、西洋の絵具を取り入れて外来であるアスターの深みのある花弁を表現した速水御舟《和蘭陀菊図》、染付の盛鉢と紅白のチューリップの取り合わせが清楚でモダンな印象をつくる小林古径《鉢花》など、個性豊かな折々の花の表現を本展では見ることができる。

展示風景より、川端龍子《八ツ橋》(1945) 山種美術館
展示風景より、左から木村武山《秋色》(20世紀)、速水御舟《和蘭陀菊図》(1935) ともに山種美術館

 第2章「人と花」は、花を取り入れた美人画など、人物を主題としながら花が彩りを添える絵画を6点紹介。満開の桜の下に3人の女と童女が集う菱田春草《桜下美人図》や、花見を楽しむ2人の女性を描いた渡辺省亭《御殿山観花図》(個人蔵)など、花が人物に与える華を楽しみたい。

展示風景より、菱田春草《桜下美人図》(1894) 山種美術館
展示風景より、渡辺省亭《御殿山観花図》(19世紀) 山種美術館

 日に日に暖かくなり初夏に向かって多くの花が咲くこの季節を、日本画とともに楽しめる展覧会となっている。