「VOCA展2024」(上野の森美術館)開幕レポート。人の営みとその周りを取り巻く存在に目を向ける
平面美術の領域で国際的にも通用するような将来性のある若い作家の支援を目的に毎年開催されている「VOCA展」。その31回目となる展覧会が、東京・上野の上野の森美術館で開幕した。会期は3月30日まで。
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東京都の上野の森美術館で、平面美術の領域で国際的にも通用するような将来性のある若い作家の支援を目的に、1994年より毎年開催されている美術展「VOCA展」がスタートした。会期は3月30日まで。
31回目の開催となる今年は、グランプリの「VOCA賞」を愛知県出身の大東忍(秋田県在住)が受賞。「VOCA奨励賞」には、上原沙也加と片山真理が、「VOCA佳作賞」には佐々瞬と笹岡由梨子らの作品が選出された。
選考委員を務めたのは、植松由佳(委員長 / 国立国際美術館学芸課長)、荒木夏実(東京藝術大学准教授)、川浪千鶴(インディペンデント・キュレーター)、丹羽晴美(東京都現代美術館事業企画課長)、前山裕司(新潟市美術館特任館長)。
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今回の受賞作となった大東による《風景の拍子》は、現在作家が住んでいる秋田県の新屋の風景を描いたものだ。ひと気のない街や辺境地を歩き、夜の暗がりのなかで踊り、その風景を描くという実践を繰り返して描かれた本作は、ありふれた風景のなかに記憶や痕跡、時間といった見えないものが可視化されている。大東は開幕式において「当たり前の日常を過ごすことがかけがえのないことだ、と痛感する事柄が増えている。この当たり前の日常を、たくさんの人に見てもらえる機会があることを嬉しく思う」とコメントした。
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沖縄県出身の上原は、様々な文化背景の入り混じる沖縄島の細部を撮影することで、その本質に目を向けてきた作家だ。そんな上原は、本作では台湾に目を向けシャッターを切っている。「台湾と沖縄は日本との関係性において共通する部分がある。また、その事実以前に、そもそも台湾はいったいどのような場所で、どのような時間が流れていたのかに関心を持った」と話す作家は、同地滞在をきっかけに、花蓮市の松園別館(日本統治時代の軍事施設)を訪れた。松園の松は、いまは多く残っていない沖縄産の松を日本から移植したものであるという事実にも写真を通じて触れられている。
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片山は、自らの身体を模した手縫いのオブジェや、ペインティング、コラージュのほか、それらの作品を用いて細部まで演出を施したセルフポートレイトなど多彩な作品を制作する作家だ。本作では、自身の手の画像をプリントした布地にオブジェを縫い付けることで、片山からたくさんの足が広がっているイメージをつくりあげた。普段義足を使用する作家にとって手が足の代わりとなることを示しつつも、その広がりは自由な選択肢があることも示しているのではないだろうか。
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笹岡由梨子の《Animale/ベルリンのマーケットで働くクマ》は、自身の身体を用いたビジュアルと作詞作曲した音楽で構成されるインパクトある作品。しかしそこに裏打ちされるのは、動物の労働の歴史に関する綿密なリサーチである。人間社会における動物の在り方や関係性について、笹岡は独自の世界観とともに鑑賞者に考える機会を与えてくれる。
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宮城県出身の佐々瞬は、公的な領域に私的なドキュメントやフィクションを介入させることで、自己を含めた人々を疎外感から解放させることに一貫して関心を寄せる作家だ。本作では、仙台市から消失してしまった街を舞台に、その記録から得た不確かな情景をモニュメント的に描いている。
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ほかにも、法廷画家として様々な事件に立ち会いながらも、その報道をひとりの視聴者として受け取り、実際に現場を訪れ、自身の関心とともにイメージをつくりあげる松元悠によるシリーズ作品や、柔らかな色調の幾何学的な抽象画のなかに人間の営みを描き、自他の境界線やその距離感について観測者の視点で描く東山詩織の作品。中国滞在時に大量生産・大量消費を陰ながら担う低賃金労働者への不平等な現実に着目し、彼らにメッセージを伝えるために商品発注を試みたウチダリナによる、そのやり取りを作品化したインスタレーションなど、平面の概念を超えた多彩な作品が見どころとなっている。
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