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2024.10.16

特別展「はにわ」(東京国立博物館)開幕レポート。人々に愛される「はにわ」とは何者か

古墳時代の約350年間、王の古墳に並べられた素焼きの造形物「埴輪(はにわ)」。この埴輪に焦点を当てた、挂甲の武人 国宝指定50周年記念 特別展「はにわ」が、東京・上野の東京国立博物館で開幕した。会場の様子をレポートする。

文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

展示風景より、《埴輪 踊る人々》(6世紀)東京国立博物館蔵
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 古墳時代の約350年間、王の古墳に並べられた素焼きの造形物「埴輪(はにわ)」。この埴輪に焦点を当てた、挂甲の武人 国宝指定50周年記念 特別展「はにわ」が、東京・上野の東京国立博物館で開幕した。会期は12月8日まで。なお本展は、2025年1月21日〜5月11日の会期で九州国立博物館に巡回する。

展示風景より、《埴輪 天冠をつけた男子》(6世紀)福島県(磐城高等学校保管)

 いまから1750年ほど前に制作が始まった埴輪は、時代や地域ごとに個性豊かなものが制作された。なかでも東京国立博物館に所蔵されている国宝《挂甲の武人》は最高傑作とされる。本展はこの《挂甲の武人》が国宝に指定されて50周年を記念し、全国各地から約120件の選りすぐりの埴輪をプロローグ・エピローグと全5章で紹介するものだ。

展示風景より、《水鳥形埴輪》(5世紀)東京国立博物館蔵

プロローグ/第1章「王の登場」

 展覧会冒頭のプロローグでは、埼玉・熊谷の野原古墳より出土した《埴輪 踊る人々》(6世紀)が、来場者を迎える。簡略化された口や手とその仕草から非常に有名な本作であるが、1930年当時の出土時の記録は残されておらず、また円筒部はすべて復元されたもので、原型部分は少ない。それでも、本作が多くの人の心を惹きつけてきたのは、この「ゆるさ」だろう。多くの人々が魅力を感じる「はにわ」を象徴する作品だ。解体修理後初の展示となる。

展示風景より、《埴輪 踊る人々》(6世紀)東京国立博物館蔵

 第1章「王の登場」では、国宝の副葬品で古墳時代を概説し、埴輪がつくられた時代と背景を振り返る。

 古墳時代前期(3〜4世紀)に、埴輪は前方後円墳とともに全国に普及した。中期(5世紀)になると、例えば江田船山古墳の出土品の《衝角付冑(しょうかくつきかぶと)》や《頸甲(あかべよろい)》のような武人的な性格の強い副葬品が目立つようになる。

展示風景より、《衝角付冑》《頸甲》《横矧板鋲留短甲》(すべて5〜6世紀)東京国立博物館蔵

 そして、後期(6世紀)になると、ヤマト王権の中央集権的な性格が強まり、また乗馬の風習がより広まる。例えば、群馬・高崎市の綿貫観音山古墳から出土した副葬品は、金銅製の装身具、武器、馬具などで、王とその馬を飾り立て、権威を示すものとしてこの時代の傾向を端的に物語る。

展示風景より、左が《金銅製鈴付大帯》(6世紀)文化庁(群馬県立歴史博物館保管)

 このように、第1章では古墳時代を通して文化や風習がどのように移り変わり、それらがどのように副葬品に反映されてきたのかをまとめて知ることができる。

第2章「大王の埴輪」

 第2章「大王の埴輪」は、古墳時代における最高水準でつくられた埴輪を、その出現から消滅にかけて見ることで、埴輪の変遷をたどる。古墳時代前期の巨大な前方後円墳が集中する奈良盆地では、現存日本最大の埴輪である《円筒埴輪》をはじめ、《壺形埴輪》や《盾形埴輪》など、多くの人々が埴輪と聞いて想像するのとは異なるであろう、大型の埴輪が出土している。

展示風景より、右が《円筒埴輪》(4世紀)奈良県立橿原考古学研究所附属博物館

 古墳時代中期に出現した王権の威容を示すための大型の前方後円墳が、大阪平野の百舌鳥・古市古墳群で、会場では日本最大の5世紀の大仙陵古墳(仁徳天皇陵古墳)から出土した《埴輪 女子》をはじめとする宮内庁所蔵の埴輪を展示する。

 古墳時代後期の注目すべき古墳は、淀川流域の今城塚古墳だ。継体大王の墓と推定されるこの6世紀の古墳からは、これぞ「大王の家」とも言うべき豪奢な《家形埴輪》や、大王を死後も守ろうとする《埴輪 挂甲の武人》などが出土しており、往時の威光を会場で感じることができる。

展示風景より、左から《埴輪 挂甲の武人》《埴輪 捧げ物をする女子》《家形埴輪》(すべて6世紀)大阪・高槻市立今城塚古代歴史館

第3章「埴輪の造形」

 第3章「埴輪の造形」は、全国から出土した埴輪の造形の差異や傾向に焦点を当てる。

 埴輪は北は岩手県、南は鹿児島県まで、幅広い範囲から主としている。大王と各地の王のゆるやかな結びつきのもと、中央の優れた埴輪を模範とした埴輪から、地方で独自の進化を遂げた埴輪まで、そのバリエーションを多岐にわたる。

展示風景より、左から《模造 船形埴輪》(原品5世紀)、《短甲形埴輪》(5世紀)東京国立博物館蔵

 本章では埴輪の誕生から消滅までを通して存在した円筒埴輪から、家、船、馬といった財産を象徴するものまで、様々な造形の埴輪を展観する。

展示風景より、《特殊器台・特殊壺》(2〜3世紀)岡山県教育委員会(岡山県立博物館保管)

第4章「国宝 挂甲の武人とその仲間」

 第4章「国宝 挂甲の武人とその仲間」では、初めて国宝に指定された群馬・太田市の飯塚町で出土した《埴輪 挂甲の武人》をはじめ、本作と同じ工房で制作されたとされる類似した4体を一堂に展示。とくにシアトル美術館が所蔵する《埴輪 挂甲の武人》はアメリカからの里帰りとあって、ほかの「挂甲の武人」と比較しながら見ることができる、貴重な機会となる。

展示風景より、左から《埴輪 挂甲の武人》(6世紀)奈良・天理大学附属天理図書館蔵、《埴輪 挂甲の武人》(6世紀)アメリカ・シアトル美術館蔵

 また、彩色されていた状態の古墳時代の「挂甲の武人」の復元や、そのモデルとなっていた人物が身につけていたものと同形と考えられる鎧類も展示されており、当時の様子を想像する助けとなる。

展示風景より、《埴輪 挂甲の武人(彩色復元)》(2023)

第5章「物語をつたえる埴輪」/エピローグ

 第5章「物語をつたえる埴輪」は、複数の人物や動物などを組み合わせて何かしらの物語を表現する。本章では、こうした群像劇の一部を切り取り、それを紹介している。

展示風景より、第5章「物語をつたえる埴輪」
展示風景より、左から《家形埴輪》(4世紀)文化庁(大阪府立近つ飛鳥博物館保管)、《家形埴輪》(5世紀)東京国立博物館蔵

 表情で威嚇する、四股を踏む、鷹を飛ばす、ひざまずくといった埴輪たちの仕草は、当時の人々が何を重んじ、何を願ったのかをいまに伝え、連綿と現在まで続く人類の営みを感じることができるだろう。

展示風景より、第5章「物語をつたえる埴輪」
展示風景より、左から《埴輪 ひざまずく男子》(6世紀)大阪歴史博物館保管、《埴輪 ひざまずく男子》(6世紀)文化庁(群馬県立歴史博物館保管)

 エピローグでは、江戸時代以降の埴輪への関心の高まりを取り上げる。俳優や小説家といった著名人が愛した埴輪や絵画のモチーフとして知られる埴輪、ゆるキャラのモチーフになった埴輪などを紹介することで、日本人の埴輪への親しみを改めて知ることができる。

展示風景より、右が《埴輪 両手を挙げる女子》(6世紀)東京国立博物館蔵

 古墳時代を通して様々なバリエーションが生み出された埴輪を、一堂で見比べてその奥深い世界に触れることができる展覧会となっている。