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2024.10.29

「公家の書-古筆・絵巻・古文書」「皇室の美術振興-日本近代の絵画・彫刻・工芸」(皇居三の丸尚蔵館)開幕レポート

皇居三の丸尚蔵館で、10月29日から「公家の書-古筆・絵巻・古文書」と「皇室の美術振興-日本近代の絵画・彫刻・工芸」が始まった。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

「公家の書-古筆・絵巻・古文書」展示風景より、国宝《金沢本万葉集》(12世紀)
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 1989年に上皇陛下と香淳皇后により、皇室に代々受け継がれた美術品が国に寄贈された。これを機に、その保存と研究、公開を目的として1993年11月に皇居東御苑内に開館した三の丸尚蔵館。同館は23年に管理・運営が宮内庁から独立行政法人国立文化財機構へ移管され、「皇居三の丸尚蔵館」と名称も新たになった。いまも新館の建設が進められており、26年に全館開館が予定されている。 

 ここで10月29日に始まったのが、「公家の書-古筆・絵巻・古文書」と「皇室の美術振興-日本近代の絵画・彫刻・工芸」だ。

公家の書-古筆・絵巻・古文書

「公家の書-古筆・絵巻・古文書」展示風景より

 公家の社会で必要とされた教養のひとつが和漢の典籍や詠歌、そして書。本展は、平安時代から江戸時代まで、禁裏(皇室)を支えた続けた公家たちが書き写した古筆の名品とともに、朝廷の政まつりごとの実務として作成した古文書や書状等などを紹介するもので、公家の書のもつ多彩な面が味わえる。

 大きな見どころは2つの国宝だろう。

 現存する日本最古の歌集『万葉集』を藤原定信が平安時代に書写した国宝《金沢本万葉集》(12世紀、前期巻第二・後期巻第四、各期頁替あり)は、旧金沢藩前田家に由来するもので、明治時代に前田家から皇室に献上された。

「公家の書-古筆・絵巻・古文書」展示風景より、国宝《金沢本万葉集》(12世紀)

「万葉仮名」と「仮名」の2種類で同じ歌が書かれていることが特徴の《金沢本万葉集》は、白や黄色の地の上に、瓜や花唐草、竹に雀などの模様が雲母を用いて摺られている。こうした料紙の上に、文字を連続させる「連綿」によって生み出された、リズミカルかつ力強い筆致を堪能したい。なお、本作は会期中4回に分けて展示替えし、計8頁が展示される。

 もうひとつの国宝は、鎌倉時代の絵巻の傑作であり、中世やまと絵を代表する《春日権現験記絵 巻十七》(1309頃、前期展示)だ。本作は、鎌倉時代の公家・西園寺公衡が発案し、絵を高階隆兼が、詞書を一条院良信らが手がけたもの。この巻では、中国に渡ろうとする明恵上人を春日明神が止めるために出現し、上人を守る託宣を語った場面が描かれている。

展示風景より、国宝《春日権現験記絵 巻十七》(1309頃、前期展示)
展示風景より、国宝《春日権現験記絵 巻十七》(1309頃、前期展示)

皇室の美術振興-日本近代の絵画・彫刻・工芸

 いっぽう、「皇室の美術振興-日本近代の絵画・彫刻・工芸」では、明治から昭和にかけて行われた新古美術品展覧会、帝国美術院展覧会、東京大正博覧会、内国勧業博覧会など11の博覧会や展覧会で、宮内庁御買上となった作品が登場する。

「皇室の美術振興-日本近代の絵画・彫刻・工芸」展示風景より

 開催時期に合わせて、秋をテーマにした作品が多いのも本展の見どころとなっており、日本画では川端玉章の《浜離宮春秋図》(1882)や信州の山を描いた池上秀畝の大作《秋晴》(1915)などがその代表例だ。

展示風景より、手前が川端玉章《浜離宮春秋図》(1882)
展示風景より、池上秀畝《秋晴》(1915)

 いっぽう洋画で見逃せないのは、太田喜二郎の《並木道》(1914)だろう。黒田清輝の勧めでベルギーに留学し、ゲントの美術学校で印象派を学んだ太田。本作にはその成果として筆致分割法が見られる。宮内省が1914年の東京大正博覧会で買上げて以降、初公開となるもので、110年ぶりに日の目を浴びた。 その歳月を感じさせない、色鮮やかな作品だ。

展示風景より、太田喜二郎《並木道》(1914)

 そのほか工芸からは、十二単を着た女性の姿を象牙によって写実的に表現した旭玉山の《官女置物》(1901)や、無線七宝で知られる濤川惣助(絵付:泉梅一)による《稲穂に群雀図花瓶》(1881)などが並ぶ。

展示風景より、旭玉山《官女置物》(1901)
展示風景より、濤川惣助(絵付:泉梅一)《稲穂に群雀図花瓶》(1881)