2025.2.1

「CURATION⇄FAIR Tokyo」展覧会パート(kudan houseほか)開幕レポート。ジャンルや時代を超えた作品同士が繰り広げる対話

「kudan house」を舞台に昨年初開催されたアートイベント「CURATION⇄FAIR Tokyo」。その展覧会の部分が始まった。遠藤水城がキュレーションした「美しさ、あいまいさ、時と場合に依る」展を中心に、古美術から現代美術までの作品が時代を超えて対話を繰り広げている。

文・撮影=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より
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 東京の登録有形文化財である「kudan house(九段ハウス)」(旧山口萬吉邸)を舞台に昨年初開催され、展覧会とアートフェアの二部で構成されるアートイベント「CURATION⇄FAIR Tokyo」は今年も開催される。その展覧会の部分が始まった。

 今年は、メイン会場となる「kudan house」での展示に加え、サテライト会場として「ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町,ラグジュアリーコレクションホテル」と「赤坂プリンス クラシックハウス」でも展示が行われる。kudan houseでは、昨年から引き続き担当する遠藤水城のほか、新たに兼平彦太郎と岩田智哉が加わり、3名のキュレーターによる3つの展示が展開されている。

展示風景より、川端康成《有由有縁》

 kudan houseの1階から3階までの空間では、遠藤が担当する「美しさ、あいまいさ、時と場合に依る The Beautiful, the Ambiguous, and Itself」展が開催。古美術、近代美術、現代美術の作品が一堂に展示され、異なる時代やジャンルの作品が同じ空間で対話を繰り広げている。8世紀の《唐三彩万年壺》や平安時代の《男神坐像》から、松江泰治三宅砂織、ジョシュ・ブランド、シュテファン・バルケンホール、土肥美穂、風間サチコらによる現代の作品までがひとつの空間に共鳴し、時間の往還を体験できる。

展示風景より、中央は有元利夫《ドローイング》(1981)。右は《唐三彩万年壺》(8世紀)
展示風景より、《男神坐像》(平安時代)

 遠藤は、この展覧会が目指す体験を次のように語っている。「作品の時代や背景、素材や技法がそれぞれ異なっているものが、同じ空間のなかでどのように対話しているのかを見ていただきたい。一つひとつの作品にじっくりと向き合うのではなく、空間全体を感じ取り、作品同士が交わす『秘密の約束』を見つけ出し、私たちが第三者としてその会話を眺めているような感覚で鑑賞していただきたい」。

展示風景より、右から猪熊弦一郎《首》(1952)、髙木大地《Raindrops》(2024)、関根直子《Square Image (409)》(2024)

 また、本展の会場構成にアーティストの五月女哲平が加わったことで生まれた、一部の部屋に設置された仮設展示壁も特徴的だ。その意図について遠藤はこう述べている。「kudan houseは関東大震災後に建てられたもので、震災に耐えられるように強い鉄筋コンクリートでつくられている。この背景を踏まえて、あえて仮設的なものやバラック的なものを作品の背景に置くことで、そのコントラストや対称性を強調している。建物の強さと、その真逆の仮設性を組み合わせることで、より強い印象を与えたかった」。

展示風景より、左から《李朝白磁壺》(李朝時代/18世紀)、シュテファン・バルケンホール《白いシャツの男》(2019)、金根泰《Discussion 2023-35》(2023)
展示風景より、左から小瀬村真美《蝶 -Butterfly- framed version II》(2021)、《唐津 壺》(桃山時代)、藤島武二《花》(1901)
展示風景より、左から風間サチコ《地球のおなら館(コンパニオン)「平成博2010」シリーズ》(2019)、《Fasolt & Fafner》(2019)

 さらに、会場では音響構成を担当した音楽家・蓮沼執太によるスピーカーの作品《共振、または1927》(2025)も設置。蓮沼は、kudan houseの建築空間における音の振動をリサーチし、その空間がもっとも振動する周波数を探り出した。この音響作品は、たんに音を加えるだけでなく、建物全体の振動と共鳴することを目的としたものだという。遠藤は「もしこれが本当に大きな音を鳴らした場合、建物が壊れると言われている」とし、この挑発的で破壊的な要素を持つ作品を通じ、「私たちが安全だと思っているものの背後にある不安定さや脆さを漂わせ、展覧会全体の基調トーンを浮き彫りにしている」と語っている。

展示風景より、蓮沼執太《共振、または1927》(2025)

 kudan houseの地下空間では、兼平彦太郎が担当した「Pocket full of sparks それは小さいのに、とても大きい。」展が開催。青木陵子の映像やモーリーン・ギャレースのドローイング、杉戸洋のスケッチ、臼井良平のガラス彫刻、そして会場スタッフのポケットから差し出されるケイト・ニュービーのオブジェなどが紹介されている。旧ガレージと庭で開催中の岩田による「さかむきの砂」展では、柏木崇吾と木藤遼太の作品が、内と外、時間と空間の交錯をテーマに展示され、鑑賞者は身体感覚とともに作品に没入することができる。

展示風景より、杉戸洋によるドローイング・インスタレーション(2025)
展示風景より、モーリーン・ギャレース《Winter Road》《Winter Woods》(いずれも2024)
展示風景より、臼井良平《Basket》(2025)

展示風景より、中央は塩見亮介《月面甲冑「白兎」》(2025)
展示風景より、野口寛斉と田中里姫の作品群

 また、サテライト会場のザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町,ラグジュアリーコレクションホテル 36階ロビーでは、古美術と、野口寛斉、塩見亮介、田中里姫による現代工芸作品を紹介する「Timeless」が開催され、レストランでは青木野枝の作品にインスピレーションを受けたコラボレーションスイーツ「Rouge Noir」も会期中に楽しめる。赤坂プリンス クラシックハウスでは「共振、または1930」展が2月4日〜7日の期間で行われ、蓮沼執太による音=空気の波と、五月女哲平による色=光の波が会場を構成する空間演出が注目される。

「共振、または1930」展の展示風景より 撮影=柳原美咲
「共振、または1930」展の展示風景より 撮影=柳原美咲

 展覧会で見た作品をアートフェアで購入するというコンセプトから始まった「CURATION⇄FAIR」。同イベントを主催するユニバーサルアドネットワーク代表の川上尚志は、「最大の特徴は、展覧会を先に開催し、その後にアートフェアを行う二段階構成で、アカデミックな側面とマーケットを融合させるアプローチだ。購入までの時間を大切にし、内省する時間を提供することで、新たな発見や気づきを与え、鑑賞者と作品との距離を縮めることを目指している」と述べている。

 古美術から現代美術までの作品が交錯し、時間と空間を超えた対話を生み出す「CURATION⇄FAIR Tokyo」の展覧会。ぜひこの機会に、ユニークな建築空間で多様な作品を楽しんでほしい。

展示風景より、右は木藤遼太《いずれ訪れるその日まで》(2025)