プレイバック!美術手帖:特集1968年4月号「地方の前衛」
『美術手帖』創刊70周年を記念して始まった連載「プレイバック!美術手帖」。美術家の原田裕規が美術手帖のバックナンバーを現在の視点からセレクトし、いまのアートシーンと照らしながら論じる。今回は、1968年4月号より特集「地方の前衛」をお届けする。
本特集のタイトルは「地方の前衛」。一見すると地味な内容に見えるが、じつはこの特集には当時の時代状況が色濃く反映されている。印象的なのは「日本列島=前衛グループ・ガイドマップ」という図だ。全国の「地方」に点在する前衛グループの名前が列挙されており、当時これほど多くの前衛運動が各地で興っていたことには改めて驚かされてしまう。
1968年は、日本の戦後美術史のなかでは「読売アンパン以後」と呼ばれる時代だった。読売アンパンとは、東京都美術館で開催されていた読売アンデパンダン展のこと。57年頃より急進化を始め、美術館が禁止事項を設けるほどに無法地帯と化した。64年に主催者が開催中止を突如通告し「強制終了」されることになるが、本特集には、この「以後」の動きを紹介するヨシダ・ヨシエの評論が寄せられている。
読売アンパン以後、そこに集っていた作家たちは「美術館の外」へとなだれ込んでいった。多くの貸画廊が存在していた東京では「画廊の時代」を標榜する篠原有司男がグループ展を連続企画し、比較的インフラが整っていない地方では、DIYの自主アンデパンダン展が乱立した。こうした動きを念頭に、針生一郎も特集内で「ハプニングスや街頭展」などの「新しい発表形式」を切り拓く動きを称揚している。
こうしたDIY的傾向について、近年旺盛に論じているのが美術史家の富井玲子だ。富井は、既存制度への不満から新たな場をつくる動きは、明治期の美術団体から戦後の前衛、そして近年のコレクティブまでを貫通する歴史であると論じる(*1)。ここでキーワードになるのが「表現」に対する「運営=オペレーション」という概念だ。
地方で乱立した自主アンデパンダン展では、作家自らが「表現」に加えて「運営」の主体となる必要性が生じた。従来の美術史は「表現」の歴史として語られてきたが、「運営」の側から見直すことにより、新たな「通史」が立ち上がるのではないだろうか──これが、富井の展開する「オペレーション論」の核心である。
作家が美術館から締め出されたことで、多様な「運営」の実践が生まれたことは、読売アンパン解散の功罪における「功」の部分だ。いっぽうの現代では、リアルからネットに至るまで「発表の場」こそ飽和しているが、これは作家たちが「表現」に幽閉された事態であるとも言えないだろうか? しかし歴史に目をやれば、新たな「運営」から新たな「表現」が立ち上がることもまた事実なのである。
*1──富井玲子「日本のコレクティビズム再考──DIY精神のDNAを〈オペレーション〉に探る」『美術手帖』2018年4・5月合併号
(『美術手帖』2023年7月号、「プレイバック!美術手帖」より)