上階フロアでは、1~3章で展示されてきた2つのコレクションとその在り方について紹介されている。
まず「ムサビ・コレクション」とは、武蔵野美術大学 美術館・図書館が所蔵する約9万点もの民具を指すもので、同大学名誉教授・宮本常一が当時の学生や若者らとともに活動を行った「武蔵野美術大学生活文化研究会」と、「近畿日本ツーリスト日本観光文化研究所」で収集した民具がその基盤となっている。
「第4章 ムサビ・コレクション」展示風景より 第4章では、そのコレクションの収蔵庫の様子が一部再現されているほか、民具の情報を調査するための実測図の在り方、宮本によって出版された『あるくみるきく』(1967-88、日本観光文化研究所)全巻が展示されるなど、貴重な資料が多数並べられている。
なお、「美術手帖」ではこのコレクションを様々な切り口から紹介するシリーズも連載中のため、ぜひあわせてチェックしてみてほしい。
「第4章 ムサビ・コレクション」展示風景より もうひとつの「EEMコレクション」とは、「日本万国博覧会世界民族資料調査収集団(EEM)」によってEXPO'70の際に世界中から収集された民具のコレクションを指し、当時は岡本太郎によって制作された「太陽の塔」の地下に展示されていたという(*2)。
第5章では、EEMの主要メンバーであった岡本太郎、泉靖一、梅棹忠夫によって刊行された資料集『世界の仮面と神像』(1970)に掲載されていた「仮面」と「神像」より、その一部が紹介されている。また、あわせて彼らが収集のためにたどったルートも世界地図として展示。短時間のあいだにものすごいスピードで各国を渡り歩いていることがよくわかるデータとなっている。
「第5章 EEMコレクションとは」展示風景より 展覧会のエピローグでは、「次の旅へ─発信されるコレクション」と称して、データベース化された民具の情報を自身の興味関心に応じてピックアップすることができるスペースが設けられており、鑑賞者と民具の新たな出会いの場が創出されている。
展示風景より 民具は、一見「古い生活の道具」という表面的な情報だけが受け取られてしまいがちで、かつ昨今は「同じような資料を保管し続ける意味がどこにあるのか」といった政治家の発言から資料の廃棄処分の是非が問われることとなった。しかし、本展で比較のために大量に並べられた民具からは、それぞれの地域ならではの「独自性」があらわになるとともに、人が生活のなかで使うものとしての「普遍性」も同時に見受けられ、大きな学びを得る機会となった。民具を観察するためのミクロな視点から、コレクションの在り方や形成の仕方までといったマクロな視点までの誘導が非常に丁寧な設計となっており、ぜひ足を運んでほしい展覧会だ。
なお、武蔵野美術大学 美術館・図書館では、関連企画展として「ヴァナキュラー・比較文化論—国立民族学博物館・特別展サテライト展示—」も3月31日より開催予定。EEMコレクションよりタンザニアのマコンデ高原に住んでいたマコンデの人々による彫像を展示するとともに、同大学が所蔵するパプアニューギニアの仮面などの海外資料や、日本の民俗資料を組みあわせて紹介。国内外の民具を、生活から生まれる造形=ヴァナキュラーの視点から見つめることができるまたとない機会となるだろう。
*2──EXPO'70の閉幕後、EEMコレクションは国立民族学博物館に寄贈され、コレクションの基盤のひとつとなった。