2025.3.21

「安藤忠雄展|青春」(VS.)開幕レポート。安藤による半世紀にわたるプロジェクトを一望

大阪駅北側の再開発エリア「グラングリーン大阪」内にある「VS.」で、建築家・安藤忠雄の個展「安藤忠雄展|青春」がスタートした。会期は7月21日まで。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

インスタレーション「水の教会」展示風景より
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安藤忠雄の約半世紀にわたるプロジェクトを一望

 独学で建築を学び、1969年より建築設計活動をスタートさせた建築家・安藤忠雄(1941〜)。その個展「安藤忠雄展|青春」が、大阪駅北側(うめきた)の再開発エリア「グラングリーン大阪」内にある“文化装置”「VS.(ヴイエス)」でスタートした。

VS.外観

 大阪出身の安藤は、1969年に安藤忠雄建築研究所を設立。79年に設計を行った「住吉の長屋」では、機能面を最低限に突き詰めたコンクリート住宅で注目を浴び、日本建築学会賞を受賞。以来、打ちっ放しのコンクリートと幾何学的造形、自然と調和する建築作品で知られ、95年「プリツカー賞」、2025年国際建築家連合ゴールドメダル、10年「文化勲章」、15年「イタリアの星勲章グランデ・ウフィチャーレ章」、21年「フランスレジオン・ドヌール勲章コマンドゥール」など、数多の受賞・受章歴を誇っている。

 そんな安藤が現在も拠点とする大阪で開催される本展のテーマは「青春を生きる」。2017年に東京・国立新美術館で30万人を動員した「安藤忠雄展|挑戦」に続く大規模個展であり、安藤の壮大な挑戦の軌跡から、現在、そして未来へのビジョンまでを集約し、そのプロジェクトの全貌を総覧することができるものとなっている。

「人間も建築も、いつまでも青いまま、挑戦心に溢れていたい。」

安藤忠雄(プレスリリースより一部抜粋)
安藤忠雄

安藤忠雄の「挑戦の軌跡」

 会場は大きく分けて「挑戦の軌跡」と「安藤忠雄の現在」の2つで構成されており、約60のプロジェクトと、スケッチ、ドローイング、模型など230点余りが出展されている。

 まず「挑戦の軌跡」エリアでは、安藤忠雄建築研究所が設立された1969年から約半世紀にわたる安藤のキャリアが一望できる。独学時代に、世界中を旅して建築を学んできたことがうかがえるスケッチや、日本建築学会賞を受賞した「住吉の長屋」、デザインの実験場として六本木に生まれた「21_21 DESIGN SIGHT」、札幌市に設計された新たな祈りの空間「真駒内滝野霊園頭大仏殿」など、住宅から祈りの空間・美術館の文化施設に至るまで、安藤の代表作における貴重な資料が数多く並べられている。

「挑戦の軌跡」展示風景より
「挑戦の軌跡」展示風景より
「挑戦の軌跡」展示風景より、「住吉の長屋」(1975-76)
「挑戦の軌跡」展示風景より、「21_21 DESIGN SIGHT」(2004-07)

 また、会場内には初期の代表作「水の教会」が原寸サイズで再現されたインスタレーションも登場。北海道の雄大な自然のなかに佇むこの建築空間を擬似体験できるものとなっている。

インスタレーション「水の教会」展示風景より

安藤忠雄の「現在」

 「安藤忠雄の現在」エリアでは、近年のプロジェクトおよび現在進行中のものが6つのテーマに沿って紹介されている。

「安藤忠雄の現在」展示風景より、「37年目の直島」。今年5月には、直島における10番目のミュージアム「直島新美術館」が開館する予定となっている
「安藤忠雄の現在」展示風景より、「37年目の直島」

 例えば、1980年代末より福武總一郎とともに携わってきた直島プロジェクトについて、時系列でまとめた映像や模型、空間インスタレーションを用いて紹介する「37年目の直島」や、フランスの実業家でアートコレクターのフランソワ・ピノーによる私設美術館「ブルス・ドゥ・コメルス」など、歴史的建造物を生かして次世代につなぐプロジェクトを扱う「時間をつなぐ」、そして安藤の本拠地である大阪で進められてきたプロジェクトから、アンビルド建築の代表例ともされる「中之島プロジェクト Ⅱ - 地層空間」を展示する「大阪から」など、様々な切り口からその建築の構想や設計図、模型が紹介されている。

「安藤忠雄の現在」展示風景より、「ブルス・ドゥ・コメルス」(2016-17)。精巧につくられたこの模型はおよそ30分の1のサイズ
「安藤忠雄の現在」展示風景より、「中之島プロジェクト Ⅱ - 地層空間」

 そして同エリアには、巨大な空間を生かしたインスタレーション「安藤忠雄の建築」も登場。安藤建築を象徴する3つの作品「光の教会」「真駒内滝野霊園頭大仏殿」「ブルス・ドゥ・コメルス」が3面スクリーンで上映されており、まるでその建築内にいるかのような迫力ある没入体験が味わえる。

インスタレーション「安藤忠雄の建築」展示風景より

 本展の開催にあたって、安藤は次のようにコメントした。「建築家としての、約半世紀にわたるプロジェクトを俯瞰することができる展覧会。1つの模型をつくるだけでも1年あまりかかることがあるが、そんな狂った作業量のものが一堂に会している。例えば、福武財団より声がけがあった80年代末から現在に至るまで取り組んできた直島のプロジェクトにおいても紹介しており、今年5月には『直島新美術館』のオープンが控えている。福武財団の構想力にはあいかわらず驚かされるばかりだ」。

 なお、展示物の什器などには、安藤が会場で直接描いたスケッチも見ることができるため、ぜひこちらにも注目してみてほしい。

什器にスケッチを行う安藤忠雄